逢 という字は時折苗字で見かける字ですが、下の名前に入れるのにふさわしい字なのでしょうか、それとも良くない字なのでしょうか。
そもそも逢とはどのような意味のある字なのでしょうか。
逢
総画:11画
音読み:ホウ、ブ 訓読み:あう《意味》
1.あう。両方から近づいて一点で出あう。転じて、ぱったりとおもいがけなく出あう。
2.相手に調子をあわせる。おもねる。
3.両方からつまみよせてぬいあわせる。(漢字源より抜粋)
意味は、出あうこと。
逢引、逢初、逢瀬など、特に男女間の出会いを連想させる字に用いられることもあるので、そうしたことを連想する人もいるようです。
しかし、此処で逢ったが百年目、逢うは別れの始め、逢うたときに笠を脱げなど、それ以外でも出あうの意味で用いられています。
特に悪い意味のある字ではありません。
この字の問題点は字体ではないでしょうか。
いわゆる2点しんにょうで表記されます。
しかし、1点しんにょうではないかと思う人もいるのではないでしょうか。
そもそもこの字は常用漢字でもなければ人名用漢字でもありませんでした。義務教育期間中に習う常用漢字や、命名に使うことのできる字であるというのならば、はっきりとした形を定めなければなりません。しかし、どちらでもなかったために、公的に正式な形というものが定められず、字体がとても不安定だったのです。
1980年頃に制定されたJIS漢字コードでは、2点しんにょうの字体よりも、1点しんにょうの字体の方が水準が高く、ワープロ等で変換しやすい状態でした。この頃に出版された漢和辞典では、1点しんにょうの字体で載せていて、画数を10画と書いているものもあります。このように辞書でさえいろいろという状況でした。
状況が変わったのが2004年です。何と逢が命名に使える字に加わったのです。このときに、1点しんにょうの字体ではなく、2点しんにょうの字体が採用されました。
人名用漢字に加わったということで当然、JIS漢字コードでも2点しんにょうの逢の水準が高くなり、容易にパソコン等で変換できるようになりました。一方で、1点しんにょうの字体は環境依存文字になってしまい、パソコン等では変換が難しかったり、うまく表示されない場合もあります。新しく出版された漢和辞典でもたいてい2点しんにょうの字体が採用されています。
しかし、このように複雑な経緯を辿ったので、人によって、この字が1点しんにょうか2点しんにょうかの認識がわかれます。ただ、あながちどちらが間違いというわけでもないのです。
こうした理由で、命名に逢の字を使う場合はしんにょうの点の数の説明が面倒かもしれません。
現在は逢が命名に使える漢字になりましたが、常用漢字ではないという状況に変わりはありません。つまりは義務教育期間中に習う漢字ではないので、当たり前に知っていること、書けることを期待するのは無理かもしれません。日常生活で、あうという意味で使うのであれば、会が使われることがほとんどです。
ちなみに、辻や蓬も同じ経緯を辿りました。どちらも2004年に人名用漢字に加わったのですが、2点しんにょうの辻や蓬が採用されました。
↑日本人の本名(下の名前)に使える字。
↑日本人の本名(下の名前)には使えない字。
第二次世界大戦後の1948年頃に、日本人の本名に使える漢字に制限が掛かるようになりました。たたし、苗字や、既に付けられた名前については規制の対象外です。
つまり、苗字か、規制のなかった1948年より前に生まれた人の下の名前に逢の字が入る場合は1点しんにょうの字体と2点しんにょうの字体のどちらの字体も考えられます。
2004年以降に生まれた人で、下の名前に逢が入るならば、2点しんにょうの逢です。下の名前に1点しんにょうの字体を使いたいと出生届を出しても受け付けてもらえません。もしどうしても使いたい場合はそれを不服として裁判を起こすことになります。
なお、逢という字が入る字といえば、縫があります。縫という字は常用漢字で、中学校で習う字です。でも、よく見たら、1点しんにょうなんですね。だから、2点しんにょうの逢が名前に入っている場合、縫うの糸偏がないものという説明では違う字になってしまいます。しんにょうに点をもう一つ付けてもらわないといけません。
また、2004年に人名用漢字に追加されたばかりということで、目新しい印象を与えます。見慣れないという理由で、下の名前に使うには風変りな印象を持つ人もいるようです。
この字を名前に持つ人に、
〇佐々木 逢介(ささき おうすけ)
2006年生まれ。俳優。
など。
他の漢字文化圏では、1点しんにょうの字体が用いられているようです。しかし、上手く表示されないかもしれません。
〇趙 光逢(Zhao Guangfeng)
9世紀ごろの人。唐末期の役人。
〇孫 奇逢(Sun Qifeng)
1585年~1675年。明~清の儒者。
〇曾 逢年(Zeng Fengnian)
1809年~1885年。清の軍人。
〇丘 逢甲(Qiu Fengjia)
1864年~1912年。台湾の客家。
詩人、教育家。
〇Anthoni Salim/林 逢生(Liem Hong Sien)
1949年生まれ。中国系インドネシア人の実業家。
など。
日本と同じような意味合いで用いられていて、姓にも使われています。
国や地域による差がありますが、フォンのように読むようです。