皇族でもないのに〇仁という名前はおこがましいの?

仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌

曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』で、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八徳の玉をもつ八犬士が里見氏再興に奮闘するというお話はあまりにも有名です。

そんなお話を思い出す仁の字ですが、このような意味があります。


総画:4画
音読み:ジン、ニ
《名付け》
きみ/きん/さと/さね/しのぶ/ただし/と/とよ/にん/のぶ/のり/ひさし/ひと/ひとし/ひろし/まさ/まさし/み/めぐみ/めぐむ/やすし/よし

《意味》
(1).{名詞}ひと。人間。
(2).(ジンなり){名詞・形容詞}自分と同じ仲間として、すべての人に接する心。隣人愛や同情の気持ち。また、そのような気持ちをもつさま。
(3).{名詞}「仁(2)」の心をそなえた人。仁徳をそなえた人。
4.柔らかい果物のたね。「杏仁(キョウニン)(あんずのたね)」。

《解字》
会意兼形声。「人+二」で、二人が対等に相親しむことを示す。相手を人として扱うこと。また、柔らかいこと。人(ジン)・(ニン)と二(ジ)・(ニ)と、どちらを音符と考えても良い。

《単語家族》
人と同系。

《参考》
草書体をひらがな「に」として使うことがある》※草書体からひらがなの「に」ができた。
(漢字源より抜粋)

“仁徳を備えた人”とありますが、仁徳とは、国語辞典にはこのように記されています。

じんとく【仁徳】

仁愛の徳。なさけぶかい徳。にんとく。

(広辞苑第五版より抜粋)

じんあい【仁愛】

めぐみいつくしむこと。いつくしみ。おもいやり。なさけ。

(広辞苑第五版より抜粋)

仁とは人の深い愛情を指す漢字。字義が素晴らしい字です。

また、相手と相親しむから柔らかいという連想で、柔らかい種を表すことがあります。杏の種を乾かしたものを杏仁(きょうにん/あんにん)というのはそういうことなのですね。

また、この字は皇族の通字として用いられています。
通字とは祖先から代々伝えられて人の名前に付ける文字のことを指します。

現在は、皇族の男性と言えば、仁が付くものです。

今上陛下の本名は徳仁(なるひと)、秋篠宮殿下の本名は文仁(ふみひと)、秋篠宮殿下の長男は悠仁(ひさひと)と“〇仁”と書いて“○○ひと”と読む名前を付けるというのが恒例となっています。

初代からそうなのではなく、天皇の本名に必ず仁が付くようになったのはおおよそ11世紀の頃からです。

このために、仁といえば皇族というイメージを持つ方が少なからず存在している様子。

一方で、皇族として生まれた女性には、名前の最後に子を付けることがお定まりとなっています。

しかし、子の字は皇族に限定して付けられていたものではありません。北条政子、日野富子など。この時代の人なので本名はよくわかりませんが、子という字はある程度以上の身分の女性に広く名付けられるものでした。

さらに時代が下って大正時代辺りになると、高貴な女性に憧れて、一般庶民の女性の名前の最後に子を付けることがブームとなり、身分に関係なく、女性の名前に子を付けるようになりました。

その後何十年とブームが続き、子が付く名前の女性が著しく増えたため、希少性がなくなり、子という字にもともとあった高貴な印象が次第に薄れていってしまいました。

その反面、〇仁で〇〇ひとという名前は、皇族に限定して名付けられるもので、ある程度以上の身分の男性には誰にでも付けられるという性質の名前でもなければ、庶民の男性の名前の最後に仁(ひと)を付けるという一大ブームも起きなかったので、子と違って高貴な印象を受ける人がいるという状態です。


2019年の明治安田生命の名前ランキングを見ると、トで終わる名前が人気にも関わらず、全く仁の字が見当たらないので、敬遠される傾向にあるのかなと感じました。

しかし、さらに調べてみると2018年までは“仁”という名前が時折ランキング入りしているようでした。

また、過去には、陽仁や結仁、篤仁、理仁、悠仁が100位以内に入ったことがありました。

女の子の名前では仁菜がランクインした年もあります。ニナとよむのでしょうか?


↓男の子の名前に使われる人気の漢字ランキングよりの順位
*25位以内に入る年のみ抜粋
*人気の漢字ランキングが発表されるようになったのは2012年から。

順位
2015年 21位
2016年 23位
2017年 19位
2018年 22位

名前ランキングで仁が入る名前を抜粋してみました。

なお、2004年(平成16年)以降は100位以内に入る名前が公表されていますが、1925年(大正元年)~2003年(平成15年)については10位以内に入る名前のみ公表されています。この調査において、1925年(大正元年)から2019年(平成31年/令和元年)に至るまで、10位以内に仁が付く名前が入ったことはありません。

また、2004年(平成16年)以降は、漢字表記だけではなく読み方のランキングも50位まで発表されるようになりましたが“〇〇ヒト”という名前が50位以内にランキング入りしたことはありません。

↓“仁”という名前の順位
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2005年 20位 10人 0.23%
2006年 68位 6人 0.14%
2009年 85位 5人 0.11%
2010年 28位 9人 0.22%
2011年 53位 5人 0.14%
2013年 90位 6人 0.11%
2016年 79位 11人 0.12%
2017年 88位 10人 0.12%
2018年 36位 18人 0.18%

↓“悠仁”という名前の順位。読み方の例としてはハルトやユウトなど。
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2011年 72位 4人 0.11%
2014年 96位 4人 0.11%
2015年 68位 6人 0.14%
2016年 39位 17人 0.19%
2017年 69位 12人 0.14%

↓“理仁”という名前の順位。
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2013年 90位 6人 0.11%

↓“篤仁”という名前の順位。
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2014年 96位 4人 0.11%

↓“結仁”という名前の順位。読み方の例としてはユウトなど。
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2015年 48位 7人 0.16%
2016年 79位 11人 0.12%
2017年 69位 12人 0.14%

↓“陽仁”という名前の順位。読み方の例としてはハルトなど。
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2015年 68位 6人 0.14%
2016年 93位 10人 0.11%

↓仁菜という名前のランキング。
*100位以内に入る年のみ抜粋

順位 人数 占有率
2012年 97位 4人 0.12%
2017年 90位 10人 0.12%

※調査要領について
2005年は2005年生まれの男の子4,292人、女の子4,082人を、2006年は2006年生まれの男の子4,409人、女の子4,167人を、
2009年は2009年生まれの男の子4,595人、女の子4,254人を、2010年は2010年生まれの男の子4,078人、女の子3,805人を、
2011年は2011年生まれの男の子3,648人、女の子3,503人を、2012年は2012年生まれの男の子3,388人、女の子3,222人を、
2013年は2013年生まれの男の子5,338人、女の子5,026人を、2014年は2014年生まれの男の子3,481人、女の子3,273人を、
2015年は2015年生まれの男の子4,278人、女の子4,122人を、2016年は2016年生まれの男の子8,947人、女の子8,509人を、
2017年は2017年生まれの男の子8,300人、女の子8,030人を、2018年は2018年生まれの男の子9,796人、女の子9,481人を調査したものです。


こうしてみると、仁を使った名前の男の子というのはちらほらいるようです。

親王殿下と同じ悠仁という名前を選ぶ人がいることに驚きました。

欧州の一部の国では王族の名前にあやかってそのまま名付けることが珍しくもないですが、日本では漢字を一文字貰ってくる程度でそのまま貰うというのはなかなか珍しいことだと思っていました。

昭和天皇の本名は裕仁(ひろひと)で、わが子に裕仁と名付ける人はまずいないとまでは言いませんが、あまり聞きませんね。でも、今は気にしない人が増えたのかもしれません。それとも昭和天皇が生まれた当時の名前ランキングをもっと下位まで見ることができたならば同じくらいいたのかもしれませんが。

ただし、読み方の例を見るに、皇族のような○○ヒトではなく、〇〇トと読ませることが多い様子。

たとえば、尚人と書いてナオトと読むのかナオヒトと読むのかわからないこともありますが、仁は〇人と似たような形で使われているようです。


元グラビアアイドルで女優でタレントのMEGUMIさんの本名は、仁と書いてメグミと読むのだとか。

遥か昔、まだ皇族の男性といえば〇仁で〇〇ヒトではなかった時代に在位した、醍醐天皇の本名は敦仁(あつぎみ)といったそう。

仁は名付けに使う読み方が多様です。良い字なので使いたい人が多く、そのようなことになったのでしょう。

参考:https://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/index.html

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