時折、初音(はつね)という名前の人がいますが、どのような印象がありますか。
そもそも初音とはどのような意味のある言葉なのでしょうか。
はつね【初音】
鶯・杜鵑(ほととぎす)などのその年の初めての鳴き声。初声。
(広辞苑第五版より抜粋)
初音とは、その季節になってはじめてなく鳥の声を指す言葉。虫の声を指すこともあります。
有名なのはウグイスの声。
ウグイスは陰暦の1月頃、新暦の2月~3月頃に鳴き始めます。
このことから、春の言葉と思う人もいますが、春に限りません。
ホトトギスの初めての鳴き声を指すこともあります。
ホトトギスは陰暦の4月頃、新暦で5月~6月頃に鳴き始めます。
ウグイスは春を告げる鳥、ホトトギスは夏を告げる鳥と言われています。
また、秋の鳥である雁も秋の訪れを知らせますが、初声(はつこえ)、初雁が音(はつかりがね)の使い方が多いかもしれません。
日本の貴族は、ウグイスやホトトギスの初音を聞くことを典雅なこととして、わざわざ山里まで出かけて聞きに行くこともあったとか。陰暦4月のホトトギスの鳴き声は忍び音という言い方もあって、これは、本格的な季節が来る前の鳴き声のことで、ひそやかに鳴くように聞こえることからこのように言います。まだ一人前でない鳴き方も愛でたのですね。
年月を 待つにひかれて 経る人に 今日うぐひすの 初音聞かせよ
源氏物語
聞くたびに めづらしければ 時鳥 いつも初音の 心ちこそすれ
拾遺愚草
雁がねの 初声聞きて 咲き出たる やどの秋萩 見に来我が背子
万葉集
初音の意味は、初めての声。
季節の始まりをイメージする言葉。
人生の始まりに名付けるのなら、物事の始まりのわくわくした気持ちを表しているのでしょうか。それとも始まりを告げる鳴き声のように先駆者になってほしいという願いでしょうか。
子供の初音(産声)に希望を感じたからという由来も考えられます。
また、源氏物語の巻名に『初音』があります。
巻名は、「年月を待つにひかれて経る人に今日うぐひすの初音聞かせよ」という和歌にちなんだもの。
この和歌は、うぐいすと娘を重ねあわせたものと解釈されています。低い身分のために娘を育てることはおろか、会うことさえも許されず、うぐいすの初音と娘のはじめての声を重ね合わせ、娘に会いたい母親の気持ちが表現されています。
山田検校が作った箏曲に初音の歌がありますが、これは源氏物語の初音をもとにしていると言われています。
源氏物語からというとどこか雅な印象がありますが、この和歌の意味を知ると物悲しい気持ちになりますね。
あるいは、初音といえば、歌舞伎の『義経千本桜』や古典落語の『初音の鼓(つづみ)』を思い出します。
初音の鼓は、源義経が静御前に与えたとされる伝説の楽器です。その鼓は、千年生きた狐の生皮を剥いで作ったもので、打つと、干ばつにあえいでいた大地に雨が降り注いだと言います。
奇蹟を起こす楽器に由来するのかもしれません。
初音という名前の有名人に、
齊藤 初音(さいとう はつね)・・・1995年生まれ。CBCアナウンサー。
など。
また、初音ミクというキャラクターを連想する人もいるようです。ボーカロイドのキャラクターで、初めての音、初めての声がやってくるというコンセプトで名付けられたとか。